クトゥルー短編作品「神津山市」1

神津山市

                

 今年も冬が来た。神津山市で生まれ育った私は今日で三十歳となる。

 妻と息子にそれに愛猫がおり、今では幸せに暮らしている。

 ある晩、降り積もる雪の中、私は会社から家に帰る途中だった。神津山は県内でも豪雪地帯と言われる土地柄、山側に行けば行くほど雪が深くなり、平地であればあるほど風雪で車のフロントガラスが見えなくなる。

 今日は運悪く残業だった。帰る途中、雪で前が見えなくなった。珍しくはないのだが、雪が降る地域ではよく見る、道幅がわかるあの長い赤色のポールすら見えなかった。これは、まずいなと思った私は、車を寄せ、風がおさまるのを待つことにした。とりあえず、スマホで家に連絡を入れることにする。私は妻のスマホに電話をした。

 ……やはりか。繋がらなかった。しょうがないから私はメールを送る。こちらはなんとか大丈夫そうだ。一息すると、

「ウオオオオオオオン!」

 と獣の吠える声が聞こえた。ドアのロックがかかっているのか確認をし、身を縮める。

「なんなんだよ。なんなんだよ」

 手足は震えていた。 

 前を見るがまだ暴風はおさまらない。その時だった。

 

 コンコン、コンコン……。

 

 私はいきなりの音に背筋が凍った。

「大丈夫ですか? 助けに来ました」

 はあ……どうやら助けが来たらしい。

 窓を開けようとするとあることに気が付いた。

『助け……呼んだっけか』

 いや呼んでいない。

 もしかして妻が……とも思ったがそれならメールが来るはずだ。

 スマホを見るが連絡はない。

「だ、誰か……」

 私は頭を抱えた。

 その時、ふと風がやんだ。私はハンドルを握り車を急発進させる。

 しかし、予想外の光景を目にした。

「ああ」

 なんということだろう。私は『宇宙』にいた。下を見ると地球が見える。綺麗な青い星。

 私は夢を見ているのだろうか。

 いや夢だろう。

 もう疲れ果てた私は、少し眠ることにした。

 …………。

 あれから何時間経ったのだろう。

 私は目が覚めても起き上がることができないし腕を動かすことも、足を動かすこともできない。

 だけど視野だけは何とかなった。丁寧に周りを見てみる。そして私は見た……。

 ああそうか。まだ夢の中なんだ。

 

 私の見た、周りを埋め尽くしていた物の正体は、大量の脳が入った「缶」だった。

 

だいじょうぶですか?

だいじょうぶですか?